今から約400年前に建てられた「彦根城」。桜田門外の変で知られる井伊直弼を代表に、江戸時代に多くの大老を輩出した井伊家の居城です。彦根城には国宝に指定されている天守をはじめ、広大な大名庭園「玄宮園(げんきゅうえん)」や、隠居した藩主や家族が暮らした「楽々園(らくらくえん)」などさまざまな建物が現存し、当時のままの風景を見ることができます。
今回はそういったお屋敷や庭園の雰囲気を楽しみながら、かつて彦根城のお殿様が来客のために用意したおもてなし料理を体験してきました!
時間はちょうどお昼時。お腹をすかせて向かったのは、楽々園の中にある立派な建物「御書院」です。楽々園は藩主家族の別邸や、隠居後の住まいとして使われていた場所だそう。
今回の体験でまず特別なのは、普段は非公開となっている御書院の中に入れること!内部は大きく4つの部屋に分かれていて、金地に菊や蝶が描かれた襖など、豪華な内装を見ることができます。
今日の体験は特別に、彦根市の和田市長と近江観光大使のクリスさんが一緒。お料理が運ばれてきて、調理を担当された老舗料亭「伊勢幾」の宮川さんから説明を聞きます。
「このお料理は、13代藩主の井伊直弼が亭主となって彦根で開いた茶会の記録『彦根水屋帳(みずやちょう)』を読み解いて再現したものです。琵琶湖の魚や伊吹そば、季節の食材など地元でとれた食材を、当時の調理法にならって素材の味を生かす形で仕上げました」
こちらは“琵琶湖の宝石”と呼ばれる「琵琶鱒(びわます)」の塩焼き。脂がのった柔らかい身に、ほどよい塩味が効いておいしい!見た目は鮭によく似ていますが、それほど脂っこくなくさっぱりと食べられます。
「伊吹蕎麦」はツルツルと喉ごしが良く、噛めば噛むほど蕎麦のいい香りが口の中に広がります。伊吹蕎麦は彦根市の北にある米原市の名産であることから、当時の彦根藩が滋賀県の北部まで広域にわたって力を持っていたことがわかります。
お茶会の料理には和歌を詠むための季語やトンチを効かせるためのネタとしての要素が含まれていたそうで、当時の茶会への参加者達も食材についてあれこれ話しながら親睦を深めたのかもしれませんね!
食事のあとは、すぐ隣にある玄宮園を散策。大きな池を中心に大小さまざまな島や橋が配置され、バックにそびえる彦根城の天守も庭園の大きな見所です。
江戸時代に開催された実際のお茶会でも、半日から一日かけて食事や散策を楽しみながら参加者同士の社交が行われていたのだそう。
滋賀県の優れた風景を厳選した「近江八景」を模してつくられたそうで、石畳の道があったり橋があったり、歩いているだけで次々に移りゆく景色を楽しむことができます。春には桜が見られ、紅葉の時期には池に映り込むもみじが格別だそうで、季節を変えてまた何度でも訪れたくなりました。
庭園をひと回り歩いたら、同じく玄宮園内にある茶室「鳳翔台(ほうしょうだい)」へ。いよいよお茶席の時間です。
鳳翔台は藩主が大切な客人をもてなすために建てた客殿で、趣のあるヨシ葺きの屋根が特徴です。
お座敷から見える庭園を眺めていると、お抹茶とお菓子が運ばれてきました。
このお菓子は、彦根城の近くにある老舗和菓子店「いと重菓舗」の「埋れ木」という和菓子。彦根藩主になる前の井伊直弼が青年時代を過ごした場所「埋木舎(うもれぎのや)」から名付けられたものだそうです。いと重菓舗は江戸時代から井伊家御用達として知られており、井伊直弼が埋木舎にいた頃から和菓子を納めていたという記録が残っているのだとか。
庭園の景色をゆっくりと眺めながら、お菓子を口に運び、お抹茶をいただきます。口の中に残るお菓子の甘みが抹茶の苦みを中和してくれて、お茶の風味をよりいっそうおいしく感じることができました。
当時の彦根藩は京都守衛職にも就いており、京都の貴族と対等な関係を築くためにも茶道や和歌といった高い教養を身につけることは必須だったそうです。そのためここ玄宮園では、客人を招いてのお茶会が頻繁に催されていたのだとか。
初夏には池に浮かぶ蓮や菖蒲、冬には雪景色を眺めながら、大名達も和歌や茶の湯を楽しんだのでしょう。
「殿様の日常」体験では、まさに江戸時代の殿様が過ごした空間、味わった食事やお茶に触れながら、くつろぎのひとときを楽しむことができます。
当時と同じ景色を眺めながら、大名達はどんなことを思ったのか想像してみるのも楽しみのひとつ。他ではできないワンランク上の体験を求めて、ぜひ彦根を訪れてみてはいかがでしょう!