さざなみ酒店

さざなみ酒店

近江の地酒の本領を探る

place 彦根市 access_time 2019年12月6日更新

さざなみ酒店は彦根駅から数ブロックのところにある酒屋さんです。道路から奥まったところにあるので、わかりにくいかもしれません。扉を開けると、そこはアラジンの巣窟のような空間で、ダークウッドを多用した魅力的なインテリアの中に、様々な種類のお酒がずらりと並んでいます。オーナーの安斎一馬さんは、日本酒ソムリエの資格を持ち、日本の国民的飲料の真の愛好家でもあります。

この地の名物料理である鮒寿司に合う近江のお酒を探そうということで、『さざなみ』を訪れました。店内に入ると、安斎さんが扉を入ってすぐの長テーブルに案内してくださいました。鮒寿司、小鮎の油漬け、佃煮など、木村水産の様々な商品をお皿に盛り付け持ち込みました。

安斎さんは料理に目を配りながら、一升瓶をテーブルの端にずらりと並べて、考え込んでいます。そしてその中から次の酒を持って来られました。

  • 佐藤酒造「湖濱」特別純米
  • 喜多酒造「喜楽長」純米吟醸
  • 畑酒造「大治郎」純米生
  • 岡村本家「阿酒羅」純米生原酒
  • 畑酒造「大治郎」山廃純米生
  • 中澤酒造「一博」純米生原酒
  • 北島酒造「びわこのくじら」生原酒
  • 富田酒造「七本槍 渡船」純米

準備が完了し、試食の作業に取り掛かりました。安斎さんに鮒寿司の匂いを聞いてみました。何が入っていると思いますか?アンモニアが入っていますか?

「いや、アンモニアではないと思います。フナやお米を搾ると、水分が絞り出されて桶の上まで上がってくるのです。そこに様々な空気中の雑菌が入り込んで増殖します。これがあの独特の香りの原因です」 「私がフランスを旅していた時、レストランの人たちは、訪問したイギリス人に試してもらおうと、一番いい香りのするチーズを持ってきてくれました」 「そうですね。食塩水で洗ったチーズは かなり臭う 鮒寿司と同じような香りがするんですよ。日本のスーパーで買うチーズは防腐剤を使っていて、新鮮さが足りないんですよ。東京の豊洲市場から直接取り寄せています。食べてみませんか?」 「うーん、それはいいですね。チーズはお酒にも合うんですよ」

チーズの世界に少し足を踏み入れた後は、鮒寿司と一緒に日本酒を試してみました。

「北島酒造の“びわこのくじら”。搾りたてをそのまま瓶詰めした、すっきりとしたフルボディのお酒です。アルコール度数は20%。風味は控えめですが、ボディはインパクトがあります」
「ああ、発泡性はスパイシーでかなり辛口ですね!」
「そう、それは酒の中に残っている発酵ガスの影響ですよ」
「そうなのですね。でも余韻に甘みが残りますね」
「そうですね、一般的には甘めの品種です。鮒寿司のお米は基本的に甘くて少し酸味があるので、甘口のお酒によく合います。辛口なので、口当たりもすっきりしています」
「確かに相性がいい」

続いて、畑酒造の「大治郎」を試してみました。

「こちらは山廃仕込みです。この古い製法で造られたお酒は全体の9%くらいしかありません。熟成による後味のカカオやチョコレートの香りがします」
「うーん、これはどうかな。日本酒と魚の強い風味がどちらかというと対立しているような気がします。日本酒自体はしっかりしています」
「お燗にしてみると、相性が良くなると思います」

安斎さんは、瓶の中のお酒を徳利に注ぎ、燗をつけます。温度計でかき混ぜながら、文字盤を常にチェックしています。ちょうどいい温度になったら、みんなの盃に注いでくれます。

「ああ、これはずっと良いですね~!健康的な感じがしますよ」
「そうでしょ?人間の体温に近い温度で提供されると、自然と体がそれを受け入れるのです。早く酔ってしまうかもしれませんが、酔いが冷めるのも早いと思いますよ」
「鮒寿司と相反していた味がまろやかになって、この酒はそれを確実に引き立てています」
「そうです。山廃や生酛のお酒を温めると、うま味成分が出てくるのです。お米本来のうま味を味わえるんですよ」

燗酒を試して、気持ちのいい変化を体験した安斎さんは、次に佐藤酒造の湖濱に移ることを提案してくださいました。

「これを温めれば鮒寿司との相性は抜群だと思いますが、まずは冷やしてみましょう」

お酒を飲みながら鮒寿司をつまんでいると、部位によって個性が違うことがわかってきました。オレンジ色の卵は明らかに濃厚でチーズっぽい。モチモチした皮はうま味がたっぷり。そして魚の尾の部分は特に酸味が強い。一方、米は甘みと酸味の両方を兼ね備えている。日本酒との相性が非常に面白い。

「このお酒には 少し乳酸の特徴があります。ヨーグルトのような香りとバターのような味がします」
「そうですね。蒸米の風味もある。そして、温めれば、その特徴がより顕著になり、鮒寿司の乳酸の風味を引き立ててくれます。日本酒は、料理の種類に合わせて温度を選べる唯一のお酒です。たった1度の温度差で風味が変わる。これは本当にすごいことだと思います」
「個人的には冷酒のほうが鮒寿司との相性が良いと思います。今のはちょっとまろやかすぎますね。」 「はい。 焼き魚に合うと思います」

次に、畑酒造の大治郎の生酛を試してみてくださいと安齋さん。生酛や山廃は 乳酸が豊富なので 鮒寿司との相性がいいようです。栓を抜くと深い音がしました。

「しっかりとした酸味があり、鮒寿司の米に合っています」
「かなりまろやかな性格。これがよく合う」
「うーん、うまい!」

温めて食べてみると、「もっと美味しい」という意見が出て、温めても冷やしても明らかに勝ち。クリーミーなチーズとの相性も抜群でした。

木村水産では、鮒寿司のお米を使ったアイスクリームも作っています。水産物とアイスクリームの組み合わせに違和感を覚える方もいるかもしれませんが、このアイスクリームは美味しいです。アイスクリームは濃厚でクリーミーなチーズ感があり、魚の味は全く感じられません。安斎さんが提案してくれたのは、一博との相性の良さ。強い甘みと熟成によるシェリーの風味が相まって、確かに鮒寿司アイスには合いました。

醤油をベースにした鮎の佃煮にも同様の厳密な調査技術を適用してみると、「喜楽長」の辛口がソースの塩味を爽やかに引き立ててくれることがわかりました。しかし、鮎のオイル漬けはジューシーでフルーティーなので、同じような特徴を持つ酒が必要です。一博はそれにぴったりでした。

魚、チーズ、日本酒の組み合わせを楽しく探った最後に、私は安斎さんに日本酒のことを英語で話せますかと尋ねました。 「こんにちは!」…というところでしょうか。